インプレッション02
 
”スピードプレイを語る”
他のペダルでは再現不可能なことばかりです。
今までのペダルに満足出来ない方であれば、スピードプレーの魅力はなおさら輝くことでしょう。
 
  ワイズロード新宿カスタム 石澤さん
  研究者気質で、様々な角度から商品を追及。
特にスピードプレイペダルをこよなく偏愛している。
 
“スピードプレイを語る”
 

今年のグランツールは安定のジロ、波瀾のツールという対極的な印象で幕を閉じました。
その中での優勝者は、ジロではTEAM CSCのイヴァン・バッソ、ツールはPHONAKのフロイド・ランディスとなりました(今、その結果に「物言い」がついていますが) 。その両者における共通点は、ペダルにスピードプレー(ジップのホイールもですね)を採用していたと言う事です。
言い換えれば、スピードプレーは今年のダブルツールを達成したのです。
むろん、このペダルはバッソ、ランディス個人が選択したのではなく、チームのサプライヤー契約に従って供給されているものです。しかし、ペダル(とサドル)は個人の好みが強く反映される部分です。
チームの契約に反してでも、気に入ったペダルを使い続ける選手がいると言う話はよく耳にするものです。にも関わらず、例えば2005年のツールでは、TEAM CSCのメンバー全員がスピードプレーを使用しました。
TEAM CSCは、ずっと昔からスピードプレーを採用しているわけではありませんから、選手達は今まで使っていたペダルと比較した上でスピードプレーを選択したのでしょう。TEAM CSCでの選手の評価は、誰も不満を言わないばかりか大変好評だったそうです。
一度使えば浮気をする気にさせないペダル、スピードプレー。
日本では超マイナーな存在であるこのペダルは、いったいどんなシステムなのでしょうか。


1、構造と作動
方式スピードプレーのペダルはどこから見ても異様な形をしています。
細かな造りが違っていると言うレベルでは無く、根本的に他のペダルとは異なる形状をしています。
ペダルのどの部分にも、ビンディングとして可動する箇所が見当たりません。硬めの靴と組み合わせれば、フラットペダルとしても使えそうです。二面ある踏面には金属製のプレートが取り付けられています。その前後端は爪のように2〜3mm飛び出し、ペダル本体との間に溝を形成しています。代わりに、クリートには大きなくぼみがあり、その中にペダルがすっぽり納まるようになっています。
内側を見ると、ペダルの爪が引っ掛かる位置にスプリング(ZEROでは馬蹄形の鉄板)が入っているのが見受けられます。このスプリングはペダルの踏面に対し水平に動き、ペダルの切り欠き部に嵌まるようになっています。つまりこのペダルは、既存のビンディングを上下入れ替えたような造りになっているのです。
既存のビンディングペダルでは、ペダルに作動部がついており、その中にクリートがおさまる造りになっていますが、スピードプレーでクリート側に作動部が入っていて、その中にペダルをはめ込むわけです。左右に足首を振るフローティング機構も、他のペダルとはかなり違う構造で実現しています。

ZEROの構造はさらに特徴的です。
クリート内部のスプリングは、クリートに対してある程度自由に回転できる造りになっています。
スプリングとペダルの位置関係は固定される仕組みなので、フローティングのメカニズムはクリートの中で完結します。このフローティングの角度を自在に調整できるのが、ZERO最大の特徴です。クリートには片側につき2個のイモネジが取り付けられています。対して、スプリングには突起が設けられています。スプリングがある程度回転すると、イモネジに突起がぶつかります。イモネジを締め込み、出しろを変える事によって、フローティングの角度を無段階で制限できます。これらの特異な構造は、もちろん開発者の趣味だけで採用されたわけではありません(ちょっと入っていそうな事は否めませんが…)。
これらの構造が生み出すメリットが、いくつもあります。利点1、使いやすさZEROの装着には少々力が要ります。しかし慣れてしまえばほとんど問題無く着脱できます。スプリングが特殊形状であるため、最初は非常にきつく感じますが、なじみが出れば問題ない操作感になります。
もっともプロの選手は、ペダルに着脱のしやすさでは無く固定力の高さを要求するので、ZEROの特性はレーサー向きだという事が言えるでしょう。そして、他のペダルと比較した時の最大のメリットは、足首の自由度の高さです。

スピードプレーのペダルは、極めて広い角度で、しかも抵抗感なく足首を振る事が可能です。この機構のおかげで、ライダーは足首のみならず、膝への負担を最小限に抑えて走れるようになります。
Xの可動角は内側に狭く、外側に広く設定されています。しかし角度を制限出来ないため、「可動角が広すぎる」「目一杯ひねらないと外せない」という声もあります。そこで、可動角を調整できるようにしたのがZEROです。
先述したクリートの機構により、足の振り幅をまさに思い通りに設定できます。ZEROを他のペダルと比較した時にもっとも優れているのが、「可動角を外側と内側とで個別に調整できる」という点です。
外側に広く内側に狭く、あるいはその逆も可能ですし、可動角をゼロにするにしても、どの角度で止めるかをイモネジで自在に調整できます。他のペダルでそれをやる時は、たいていクリートの取付位置もずれてしまいますが、ZEROでは位置を全く変えずに角度だけを変える作業が簡単に出来ます。
クリートの取付位置といえば、今クリートがどの位置についているか分かりやすいのもメリットです。

LOOKやSPD-SLは、クリートとボルトの間にワッシャーが入っているため、クリートが靴のどこについているのか非常に分かりづらい構造になっています。
対してスピードプレーは、縦の調整と横の調整を、3重構造になったクリートの別々の部分でおこなう造りになっています。縦、横(加えてZEROでは角度)を完全に独立して調整できる上、ワッシャーが間に挟まっていないため、クリートがどこについているのか、視覚的に分かりやすい造りになっています。


2、安全性
既存のビンディングペダルの機構は、多少の差異こそあれ、基本的には共通です。
ペダルに設けられた可動部を拘束するスプリングは、実は足がペダルを引き上げようとする力に反応する向きについています。極端に言うと、足を引き上げる力で、ペダルが外れうると言う事です。一方、スピードプレーはというと、スプリングの配置が少し変わっています。スプリングの動く向きは、ペダルの踏面に対して水平になっています。スプリングを納めるハウジングも、踏面に対して水平に配置されているため、このスプリングは、踏面に対して垂直の力では動かない造りになっています。これは、ペダルを踏み込んだり、引き上げたりする力ではビンディングが作動しない、と言う事を意味しています。むろん、他のペダルも、足を引き上げる力では外れないような工夫はされています。しかし、それらはどちらかと言えば、クリートが外れないようにうまく向きを逃がしている、と言ったレベルでの話であり、スピードプレーほど根本的な解決をはかったペダルは存在しません。今どき、引き上げたくらいで勝手に外れるペダルもそうそう無いでしょうが、スピードプレーはその可能性を設計の段階で完全に排除しているという特徴があります。

さらに、コーナーで自転車を倒しこんだ時の安全性にも優れています。
「ロードクリアランス」とは、簡単にいえば「自転車をどのくらい倒すとペダルが地面にぶつかるか」という指標です。スピードプレーはペダル本体が極めて小さく、他のペダルシステムに比べて広いロードクリアランスを誇ります。


2-2、安全性その2
自転車をおりて歩く事に関しても、安全性が考慮されています。
特にLOOKクリートで顕著にいわれる事ですが、ロードペダルのクリートは歩行にまるで向いていません。
基本的に歩く事を考慮に入れていないため、つま先がかかとより高く持ち上がり、クリートは滑りやすいです。さらに、歩くとすり減ります。しかもすり減る部分は、たいがい着脱の機構に直接影響が出る部分なので、減れば減るほど着脱の感覚が変化して行きます。よく、「LOOKクリートは減るとはめやすくなる」等と云われますが、そのような何がしかの変化が起きるのが常でした。
スピードプレーのペダルは、歩いても非常に減りにくく、また減っても、着脱に(実質)一切の影響を与えません。可動機構が、地面に直接接触する場所に配置されていないためです。
歩いた時のクリートの保護という点については、シマノのSPD-SLが高い完成度をもっていますが、スピードプレーはそれに比肩する、あるいはそれ以上にクリートの保護を徹底したペダルです。歩きやすさという点においては、SPD-SLには劣るものの、意外なことにLOOKよりも滑りにくいです。
クリートの最外層が金属製なので、ある程度削れると滑らず、路面に噛み付くようになります。
前日にワックスをかけたばかりのコンビニの店員には白い目で見られるかもしれませんが、スピードプレーのクリートは地面に対してある程度のグリップ力を発揮してくれます。
もちろん、純正のクリートカバーが発売されているので、よく自転車をおりて歩く場合にはこれが大きな効果を発揮します。


3、軽量
スピードプレーのペダルは軽い。これは事実です。しかしシステム全体で考えた場合、他のペダルと比べてずば抜けて軽量、と言う訳でも無いのも事実です。
最大のポイントはクリートが重いと言う事です。たとえば市販されている最軽量クラスのペダル、「LOOK Keo Ti CARBON」と比較すると、ペダル+クリートの重量では、ZERO Titaniumは20gほど重いです。
しかし、この重量差は、ある特定の条件では逆転します。その条件とは、「4つ穴のシューズと組み合わせる」ことです。
もともとスピードプレーはタイムの4つ穴互換で開発されたペダルなので、3つ穴のシューズに使う時は付属のアダプター(レイヤー1という名前がついています)を挟んで対処しています。しかし4つ穴シューズに使う時はこのレイヤー1は不要なので、一枚構造体を省略できるわけです。
前述の比較で、スピードプレーの条件を「4つ穴シューズと組み合わせて使用」とすると、「LOOK Keo Ti CARBON」に対し、ZERO Titaniumは30g軽量になります。
現在、市場には4つ穴専用のシューズはほとんど出回っていません。しかし、アダプターを使って4つ穴形式に対応するシューズであれば、ディアドラ、シディ等から発売されています。これらのメーカーのシューズでは、元々ついている3つ穴のプレートを、4つ穴のプレートに差し換えて使う事が出来ます。
標準の3つ穴のプレートよりも、4つ穴のプレートの方が重いので、先述の重量差は若干埋まると思われます。しかし、それでもスピードプレーが、市場で最軽量クラスのペダルであることには変わりありません。


4、ダイレクトさ
他のペダルとスピードプレーを比較したとき、最も高い評価を受ける点が、実は「ダイレクト感」です。
見た目の印象で想像されている方が多いと思いますが、「スピードプレーはペダルが小さいから安定感がない」というのは誤解です。小さいにも関わらず、高いダイレクト感を誇るペダルがスピードプレーです。通常のビンディングペダルの場合、踏んだ力を自転車に伝えるのに、シューズ→クリート→ペダルという段取りを踏みます。シューズとペダルの間にクリートが介在する事によって、踏面からペダル軸までの距離(「SAC」,Sole to Axle Clrearanceと呼ぶことにします)は増大しますし、クリートが狭かったり柔らかければ、それだけで力が逃げてしまいます。また一般的なクリートは、「シューズのアウトソールのカーブは、シューズごとに違っている」という事を考慮していません。
一定のカーブが設けられたクリートを、シューズにそのままねじ込みます。シューズのカーブが極端にきつかったり、浅かったりすれば、そのぶんクリートはたわみ、ペダルとの接触面は減少します。
しかし、スピードプレーは違います。踏んだ力が自転車に伝わるまでに、シューズ→(アダプター)→ペダルという手順になっているのです。
4つ穴のクリートを3つ穴のシューズにフィットさせるためにアダプターを挟むわけですが、これをシューズに取り付ける段階で、シムを用いてきっちりカーブにフィットさせます。結果、シューズ、アダプダー、そしてペダルの間にたわみはなくなり、ペダルを設計通りの状態で使う事ができるわけです。
アダプター自身は非常に薄く、硬く、また広く設計されているので、踏み込む力をスポイルさせる事はありません。3つ穴シューズと組み合わせ、アダプターを挟んだ状態でも、SACは11.5ミリ、3大ペダルブランドの中で最も薄いのです。また、4つ穴シューズと組み合わせて使えば、力を逃す要因であるアダプターは不要になります。
またSACも減少し、わずか8.5ミリ、市販されているペダルとしては最も薄くなります。SACが少ないと言うことは決定的なメリットです。薄ければ薄いほど、踏み込んだ力はダイレクトに伝わります。足首に不用意な負荷がかかることも防げます。
SACが大きいのが好みと言う人も当然いらっしゃいますが、その場合はクリートと靴の間に何かを挟んで厚みを増やせば良いことです。薄いものを厚くするのは簡単ですが、逆はできません。
さらにクリートはペダルと一体化し、きわめて広いエリアでシューズからの力を自転車に伝えます。極端に言ってしまえば、スピードプレーは、フラットペダルにシューズとペダルの位置がずれないように固定機構を足したペダルだと形容できます。


5、色
スピードプレーは、ロード用ペダルとしては果てしなくマイナー、知名度が皆無に近いブランドです。
トライアスリートには一定のシェアを持っていたのですが、ローディの間からは「何それ?」的な扱いを受けていたブランドです。 ところが、タイラー・ハミルトンがこのペダルを持ち込んだことにより、ロード界にその名が知られることになったのです。
しかし、その時点では1チームだけが使う、良く分からんペダルに過ぎませんでした。
そこでスピードプレーが知名度を高めるためにおこなったのが、「プロチームが使っていることを強調する」ということでした。「あぁ、あのチームが使っているのか」と分かれば、多少なりとも存在を認知してもらえます。そのために用意されたのが、チームカラーのペダルです。
当時ハミルトンが在籍したCSCのイメージカラーの赤が、ラインナップに加わりました。その後ハミルトンはフォナックに移籍したのですが、スピードプレーは今度もチームカラーの黄色を発売しました。
これにより、ZEROのチタニウム、及びステンレスには、標準色(チタニウムはグレー、ステンレスはブルー)に加え、両チームカラーの赤と黄色の3色展開になったのです。
こうなってしまえば、カラーラインナップを増やさない理由はありません。
CSCのイヴァン・バッソが念願のジロを制した時に、スピードプレーはマリアローザカラー(ピンク)のZEROを製作しました。このカラーも正式販売されることになり、ラインナップは4色になり、さらにその後、カラーはさらに増え、なんと全6色(!)の展開にまでなりました。
ここまで色数の多いペダル(しかもフラッグシップで)はきわめて稀です。
今後、さらにカラーは増えることでしょう。徹底的に合理性を追求しながらも、遊び心を忘れない、ユニークなブランドがスピードプレーなのです。


6、注意点
スピードプレーはその特異な構造により、さまざまな利点を得たペダルです。
しかし、人間の造ったものに完璧なものなどありえません。スピードプレーにも、使用上(あるいは導入を検討する上で)注意しなければならないことがあります。
ひとつめのポイントは、使い込んでいくと、左右方向に独特のガタが出てくるという点です。スピードプレーのクリートは前後のかなり狭い範囲でペダルをくわえこんでいるため、足を引き上げる際、左右方向のカント角にガタが出やすいという特徴があります。
このガタが設計によるものなのか、あるいは意図せざるものなのかは不明ですが、他ではあまり見られないこのガタが嫌だ、という方は注意が必要です。
ただし、足の引き上げの力をスポイルするほどの物ではないので、気分の問題だと言える程度です。
使用上のその他の注意点も、主にクリートに関することです。
まず、スピードプレーのクリートは他に比べて高価です(ZERO用¥6720)。通常の使用において、スピードプレーのクリートは他のクリートよりも減りにくいですが、だからといって無為にすり減らしてしまうと、高いクリートを買わなければなりません。
また、可動機構が全てクリートに集中している関係上、土の上を歩くと即座に内部が泥詰まりします。内部に汚れが入り込んでしまった場合、クリートを分解して清掃する必要があります。アスファルト以外を歩く可能性がある時は、クリートカバーを取り付けることをお勧めします。
また、ZEROの、チタンスピンドル仕様には185lbs(約84kg)の体重制限があります。


7、まとめ
これまでのお話で、一体このペダルがどのような特徴を持っているかをご理解頂けたかと思います。
では、その特徴がどのようなメリットを生み出すか、一通りまとめてみましょう。

・ 足首の自由度が高く、膝への負担が少ない
・ クリートの取付位置が視覚的に分かりやすい
・ クリートの角度と位置を個別に調整できる(ZERO)
・ 足を引き上げる力で勝手に外れることがない
 自転車を倒しこんでも、ペダルが地面に接触しにくい
 クリートが減りにくい。減っても着脱に支障が出ない
 樹脂製のクリートより、歩いても滑りにくい
 軽い。靴との組み合わせによってはさらに軽量に
 システム全体のたわみを極限まで抑え、力をダイレクトに伝える
 踏面からペダル軸までが近く、力をダイレクトに伝える
 色が豊富(ZERO)このような特徴があります。

いくつかの注意点はあるものの、このペダルが持っている特徴は、他のペダルでは再現不可能なことばかりです。今までのペダルに満足出来ない方であれば、スピードプレーの魅力はなおさら輝くことでしょう。

>ワイズロード新宿カスタム http://ysroad-maniac.com/